
今、30代後半以上の人たちのアフリカに対するイメージって、1980年代のエチオピア飢饉のイメージからあまり変わってないんじゃないかと思います。乾いた大地にやせ細った黒い人々が座り込んでいる姿が延々続く景色。2000年代に入っても、スーダン・ダルフールで似たような状況が再現されたし、相変わらず「黒人の」「暑く」「貧しい」大陸というイメージは変わっていないんじゃないかなと。
アフリカには50以上の国があり、一口に「アフリカは」なんて括って話すことは難しいです。北アフリカはアフリカといっても文化的には中東・アラブ圏だし、モーリシャスとかセイシェルとか、一応アフリカだけど島国でほとんど先進国並みという国もある。南アフリカは気候的には地中海的だし、経済は中進国。エチオピアにしても、首都アジスアベバはそれなりに開発が進んだ住みやすい都市だと聞いています(標高高いので空気が若干薄いらしいけど。)。
そんな感じなので、アフリカの印象をひとまとめに語ることはできないですけど、でも、それでも、やはり開発の遅れた、貧しい、破綻した国家が多いのは事実。特にサブサハラ、ブラックアフリカと呼ばれるサハラ沙漠以南のアフリカや、西アフリカにはその傾向が顕著です。
ところが、たしかに貧しいんですけれど、共通しているのはたいていどこの国にも特権階級がいて、破格に豪勢な生活をしているんですよね。豪邸に住み、高級車を何台も所有し、使用人を大勢使って生活している人たちがいる。で、そういう人たちが陰に陽に政治に影響力を行使し、またある時は自身が政治家であったりするんです。
粗末な社会インフラの中で非常に貧しい生活を強いられている多くの人々とほんの一握りの特権階級、というのは多くのアフリカの貧困国に共通した構造であるように見えます。そしてこの特権階級の人々は、自国の発展にはあまり興味を持ちません。自国よりも、自分の一族の発展が第一です。そして、対外的には「自国の発展のため」という説明をしながら、実際には「自分の一族のため」の支援を得ようとします。彼らの視界の中に、自国の国民の姿はほとんど存在しないような気さえしますよ。
「特権階級と多くの貧しい国民」という構造は、「封建領主と領民」の関係に似ているところがありますが、ひとつ違うところがあります。封建領主は領民から年貢や人頭税を取り立て、労役を課したのですが、アフリカの特権階級は国民から直接は搾取しません。彼らの収益源は、国営・公営企業の収益や鉱山開発等のロイヤリティ収入、独占事業や許認可事業による収入、あるいは関税収入や海外からの開発援助に関するものが多く、本来ならば国民が手にし得たはず富をかすめているので間接的には搾取していることには違いないのですが、国民の財布から直接抜き取るようにはなってないのです。現に、このような貧しいアフリカ諸国の国民負担率((租税負担+社会保障負担)/国民所得)は10%〜20%程度で、多くの先進国の40%〜60%という水準を大きく下回ります。この国民負担率の低さは、特権階級(≒為政者)対しては、国民の負担によって国家が運営されているという意識を希薄にさせるように働くと考えられます。納税者に対する説明責任というものをあまり気にする必要がないので、国民のため、国民の付託に応えるための政策を打つという意識も希薄になり、「視界の中に国民の姿がほとんど存在しない」という状況になるのも当然という構造ですよ。
だから、そういう特権階級の人たちは、社会の民主化が進み経済が自由化されると自分たちの特権・地位が危ないので、たとえそれが自国の発展を妨げ国民が貧窮することになる政策であっても、それを支持することさえ、ままあります。表向きは経済発展、開発が重要と主張し、自分が利権を持つ企業が利益を拡大できる場合は積極的に推進するのですが、自身の利益に反することは、たとえ経済発展に必須な政策であっても、「国家主権の問題」というようなもっともらしい理由をつけて、厚顔無恥にも反対するのです。
日本だったら自民党に聞いても共産党に聞いても「日本を発展させたい」という根本では一致すると思いますけど、こういう貧しいアフリカの国には、無自覚的にしても本音のところで「今のままでいい、発展させない方がいい」と思っている特権階級、支配階級がいる国が多いんです。
汚職とか腐敗とかいうと贈収賄を思い浮かべますが、贈収賄くらいならかわいいもので、国のシステム全体が搾取の構造になっている「腐敗」なんですよね。アフリカが発展しないことを書いた本や論文はいくらでもありますし、私がここで書いているようなこともまあ簡単に言ってしまえば「利権の構造」ということで特に目新しいことではないんでしょうけど、アフリカの途上国に3年以上住んでみて、そういう構造が実際に存在していることに気付いて、残念な気持ちになるのです。
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